日々進化していく絵本
チャンスさえあれば、より好条件で転職し、キャリアアップにつなげようと考えている。
何の気負いもなく、将来へのステップとして、「転職」というものを考えている。
ここでは、人間関係が日本のように鯵着的ではなく、いわば契約社会特有のドライな風が吹いている。
また、この業界を取り巻く環境が、買収や統合で変化しやすく、そこに働く人間たちも、おのずから影響を受けざるを得ない面もある。
根本的に、シティで働く人たちには、経験と能力を蓄え、他社に移って、もっと高い収入と地位を手に入れるのだ、という気概がある。
「それでなければシティに来た意味がない」と彼らは言う。
上司もそれをあえて引き止めたりはしない。
私はシティに十三年働いて来たが、そのうち、日本の金融機関の現地法人で五年ほどを過ごした。
部下の一人、二十代後半のイギリス人Jは、「ここで二、三年勤めて経験を積み、もっと大きい銀行に移るつもりです」と私にはっきりと言った。
そして、事実、二年後にある格付け機関に移り、さらに三年経ってイギリスの銀行に移った。
今では、シニア・ディレクターの地位にあり、年収が十六万ポンド(千四十万円)になった。
彼はまだ三十代前半の若さである。
私は今でも彼とつきあいがあるが、この間会ったら、元上司の私に向かって、「この五年で私の年収は、七倍になりました」と誇らしげに語っていた。
しかし、全く嫌味はない。
このような上昇志向の男を、私は決して嫌いではない。
第一、人並み以上に努力をしなければ、実績があがるはずもなく、彼のような地位も収入も手に入らないのである。
怠け者にはとても出来ることではない。
イギリスの金融界は、日本のように、一度入社すれば少なくとも社員の身分だけは保証されるような甘い世界(これも今では崩れつつあるが)ではない。
怠けていると、それがそのまま評価にはねかえる。
努力をしてもめぐり合わせが悪く、思うような成果があがらなければ、たちまち職を失いかねない。
チャンスも大きいが、リスクもまた大きい。
それがシティである。
ただ、部下に去られる身はやはり辛い。
私の部下のイギリス人たちは、力をつけるとどんどん転職していくので、私はまるで彼らの養成係をしているような気がして、むなしい思いをした。
なにしろこちらは、何も知らない若者に、仕事のイロハから手取り足取り教えてやるのだ。
早く一人前にしてやろうと思うから、きびしく仕込む。
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